5741 · 東証プライム 非鉄金属 / IFRS
上方修正・増配のあとに年初来安値 — 市場は「関税がくれた利益」をいくらと見ているか
株価は 2026年10月13日 9:11 時点(寄り付き直後に2,042円をつけ年初来安値を更新)。業績は 2026年8月6日公表の第1四半期決算短信〔IFRS〕・決算説明会資料・業績予想修正を一次資料とする。
急がない — PER 9倍は「ピーク利益」に対する数字
今期の事業利益860億円のうち718億円が米国子会社TAA。その上振れは米国のアルミ関税が作った市況による。会社自身の中計目標(27年度 事業利益600億円)に戻る前提で測り直すと、PERは13倍前後になる。
条件付き — PBR 1倍が目安、配当は床にならない
株価はBPS 2,104円とほぼ同値まで落ちた。ただし配当方針は「配当性向30%以上」で、利益が戻れば配当も戻る。下値を支えるのは配当ではなく、純資産と構造的な需要(半導体装置・データセンター・欧州缶材)のほうである。
PERは27/3期予想EPS 231.96円(業績予想修正)。PBRは26年6月末の親会社所有者帰属持分 3,809億円 ÷ 自己株控除後 1億8,107万株 = BPS 2,104円 から自算。持分比率は同持分 ÷ 総資産1兆2,175億円。時価総額は自己株控除後(控除前なら3,856億円)。ROEは決算説明会資料の会社算出値。
UACJの株価は5月26日の終値3,575円から41.8%下げた。だが会社は8月6日に通期の純利益を280億→420億円へ上方修正し、配当も58→70円へ増配している。業績が悪化して売られているのではない。市場が売っているのは「今期の利益の大半は、米国の関税とアルミ相場が一時的にくれたものだ」という一点である。今期の事業利益(在庫評価などを除いた実力ベース)860億円のうち、米国の缶材子会社Tri-Arrows Aluminum(TAA)が718億円、比率で83%を稼ぐ計画で、TAA以外の事業利益は前期172億円→今期142億円とむしろ減る。そして会社自身の第4次中期経営計画の最終年度(27年度)の目標は事業利益600億円。今期の860億円は自社目標すら大きく上回る「出来すぎ」で、市場はそれが来期以降に剥がれる前提で値付けしている。したがって判断の軸は一つ、米国のアルミ価格に乗っている関税プレミアムがどこまで残るかであり、11月3日の米中間選挙もこの一点を通じてのみ効いてくる。
5月末の高値から今日までの下げは、一度に起きたのではなく、性格の違う4つの波に分かれる。大きな下落日と、同じ時期に起きた出来事を並べる。
| 日付 | 終値 | 前日比 | 同時期の出来事 |
|---|---|---|---|
| 5月26日 | 3,575 | +4.08% | 年初来高値圏。LMEアルミは6月2日に4年ぶり高値(中東情勢による湾岸の供給不安) |
| 6月8日〜23日 | 3,000→2,612 | 6/23 △9.78% | ① アルミ相場の急落。6月17日の米・イラン合意とホルムズ海峡の再開で供給リスクが剥落、LMEは6月だけで約17%下落(2008年以来の月間下落率と報道) |
| 8月6日 | 2,318 | △7.94% | ② 上方修正なのに売られた。14時に1Q決算・上方修正・増配を発表。ただし1Qの営業利益538億円のうち281億円は在庫評価益で、通期ではほぼ消える計画(後述) |
| 8月19日〜20日 | 2,331→2,268 | △5.74% / △2.70% | ③ 関税引き下げ観測。米国がカナダ産アルミの関税を50%→25%へ下げる方向と報じられ、米中西部プレミアム(MWP)の9月物が8.2%急落(Bloomberg、8月20日) |
| 8月24日 | 2,367 | +5.62% | 8月21〜22日に米加交渉が決裂、カナダが9月8日から報復関税と表明(CNBC、8月22日)。関税50%が維持される側に戻り、株価も戻した |
| 9月24日〜25日 | 2,219→2,230 | △1.42% | ④ 古河電工が全株売却。第2位株主(約7%)が政策保有解消で全株を売却すると発表。株価への影響は当日△1.4%と小さく、変更報告書では6.88%→0.00% |
| 10月8日 | 2,112 | △5.33% | 個別材料は一次資料で特定できず |
| 10月13日 | 2,081 | 9:11時点 | 寄り付き直後に2,042円、年初来安値を更新 |
4つのうち業績そのものに関わるのは①と③で、どちらも「アルミの値段」である。①はロンドン(LME)の国際価格、③は米国だけに乗っている関税プレミアム。UACJはアルミを買って板にして売る圧延会社なので、本来は地金価格に左右されにくい。それでもこの2つで売られるのは、今期の利益がまさにこの2つの上振れで膨らんでいるからだ。④の古河電工の売却は需給の重しとして語られやすいが、当日の値動きを見るかぎり主因ではない。むしろ売却が完了したことで、上値で待っている大口の売りが一つ消えたと読める。
| 通期 | 26/3期 実績 | 27/3期 5月予想 | 27/3期 8月修正 | 中計 27年度目標 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 11,817 | 13,000 | 14,000 | — |
| 事業利益 | 482 | 650 | 860 | 600 |
| 営業利益 | 769 | 640 | 850 | — |
| 親会社帰属当期利益 | 389 | 280 | 420 | — |
| EPS | 214.75円 | 154.64円 | 231.96円 | — |
| 1株配当 | 55円 | 58円 | 70円 | 性向30%以上 |
| 前提 LME($/t) | 2,772 | 3,200 | 3,169 | — |
| 拠点 | 26/3期 実績 | 27/3期 1Q | 27/3期 通期予想 | 増減 |
|---|---|---|---|---|
| TAA(米国) | 310 | 181 | 718 | +408 |
| UATH(タイ) | △12 | △16 | 11 | +23 |
| UWH(米国) | 9 | 2 | 4 | △5 |
| 3社以外(国内板事業など) | 175 | 90 | 127 | △48 |
| 参考:連結 − TAA | 172 | 76 | 142 | △30 |
| 連結 事業利益 | 482 | 257 | 860 | +378 |
連結の増益378億円に対し、TAAの増益は408億円。TAA以外は合計で減益である。TAAが何で稼いでいるかは、会社自身がはっきり書いている。「米国アルミ市況とリサイクル原料処理能力の増強等により利益拡大」「リサイクル原料価格の記録的な好環境により、強い財務パフォーマンスを享受。今後の推移を注視」。
仕組みはこうだ。米国はアルミに50%の関税を課しており、米国内の地金価格にはLMEの上に「中西部プレミアム(MWP)」が乗る。MWPは2025年初の4倍以上、2026年に初めて1ポンド1ドルを超えた。一方、TAAが原料にする使用済み飲料缶などのスクラップは国内で回収されるので関税がかからない。製品価格は関税込みの地金価格に連動し、原料は関税なしで仕入れられる。この差がTAAの上振れの正体で、TAAはそれを取りに行くためにリサイクル設備を増強した。設備投資は本物だが、利ざやの大きさは関税という政策が決めている。
会社の通期予想は、TAAが1Qの181億円とほぼ同じペース(残り3四半期で平均179億円)を年度末まで続ける前提になっている。その一方で同じ資料に「米国のアルミニウム市況は当面高水準で推移することを見込むが、4Q以降は状況を注視」とある。会社自身が、計画の後半に確信を持っていない。
1Qの純利益は359億円(前年同期比約27倍)だが、通期予想は420億円。残りの3四半期で61億円しか見込んでいない。理由は在庫評価で、1Qは地金高で棚卸資産影響が+281億円出たが、通期では△10億円の想定。つまり2Q以降に約290億円の在庫評価損が出る計画で、LMEは実際に6月高値から下がっている。11月の2Q決算は、計画どおりでも営業利益・純利益の見た目が大きく落ちる。見るべきは事業利益とTAAの数字である。
有利子負債は26年3月末3,887億円→6月末4,103億円(+216億円)。1Qの営業CFは△72億円、フリーCFは△231億円。地金高で棚卸資産が395億円増えたためで、会社は「地金市況価格の高騰により運転資金が増加」と説明している。D/Eレシオは0.9倍(劣後ローンの資本性を考慮した会社算出値)で、中計目標の水準内。地金が下がれば運転資金は逆に戻ってくるので、ここは相場下落時にむしろ現金が出てくる構造である。設備投資は24〜27年度で累計1,850億円(補助金控除後1,650億円)の計画。
ナンピンが効くかは「安いから」では決まらない。下落が資産の毀損なのか、値段だけの問題なのか。UACJの場合、資産(工場・顧客・長期契約)は毀損していない。下がっているのは、上乗せされていた一時的な利益の評価である。問題は、その上乗せがどこまで剥がれるかだ。
| 前提 | 事業利益 | EPS(試算) | 現株価でのPER | 配当(性向30%) |
|---|---|---|---|---|
| 今期計画が来期も続く | 860 | 232円 | 9.0倍 | 70円 |
| 中計の27年度目標へ戻る | 600 | 約162円 | 約12.8倍 | 約49円 |
| TAAが前期(310億)に戻る | 452 | 約122円 | 約17.1倍 | 約37円 |
米加交渉が長引き、関税50%とMWP 1ドル/ポンド前後が維持される。TAAは2Q以降も四半期170〜180億円を出し、27/3期は事業利益860億円を達成。28/3期計画が中計目標600億円を大きく上回る水準で出る。資本政策として自社株買いが加わる。PBR 1.2〜1.4倍(BPSは期末に2,200円前後へ増える想定)。
選挙後にカナダ向け関税が25%へ下がるが、他国は50%のまま。MWPは段階的に下がり、TAAの利ざやは半分程度剥がれる。27/3期は計画近辺で着地するが、28/3期の事業利益は600〜700億円の計画。配当は性向30%に沿って50〜55円へ減配含み。半導体厚板とデータセンターがTAA以外の減益を止める。PBR 0.85〜1.1倍で、今の株価はこのシナリオの中ほどを織り込んでいる。
物価対策で関税が広く引き下げられ、同時にスクラップ価格が関税込み地金に追いつく。TAAの事業利益は前期の310億円水準へ戻り、連結事業利益は450億円前後。配当は40円前後に。LME安で在庫評価損も重なり、2Q・3Qの見た目の減益が続く。PBR 0.65〜0.8倍。1年前の安値1,638円が再び視野に入る。
確率は筆者の主観であり、モデルによる推計ではない。レンジはPBR・PERの水準から逆算したもの。
UACJにとって米国の保護主義は追い風である。TAAは米国内の生産者なので、輸入アルミに関税がかかるほど有利になる。選挙の影響は「関税が続くか、緩むか」の一点に集約される。アルミ関税は通商拡大法232条に基づく大統領布告で、議会が撤廃法案を通しても拒否権を覆すには両院の3分の2が要る。10月11〜12日時点の各予測(Silver Bulletin・Decision Desk HQ・Poliwave)は民主党の下院奪還を76〜93%、上院を56〜61%と見ているが、3分の2には遠い。効いてくるのは選挙前後の物価対策としての通商合意で、8月にはカナダ向けを25%へ下げる交渉の観測だけでMWPが急落した(交渉は8月21日に決裂、USMCA見直し協議に鉄鋼・アルミが組み込まれる流れ)。
| 選挙結果 | 想定される政権の動き | MWP・TAAへの方向 |
|---|---|---|
| 共和党が両院維持(予測上は少数シナリオ) | 関税政策を信任されたと受け止め、現行の50%を維持しやすい | 追い風が続く |
| 下院のみ民主党(予測の中心) | 立法が止まり、大統領が単独で動かせる通商政策の比重が上がる。一方で2028年に向け物価対策の圧力は強まる。カナダとの部分合意(25%)は「物価対策の成果」として出しやすくなる | 緩やかに逆風。カナダ合意の有無が分かれ目 |
| 両院とも民主党 | 関税の見直しを求める決議・公聴会が増え、政権は譲歩材料として関税を使いやすくなる。ただし拒否権があり撤廃は難しい | 逆風の確率が上がる。ただし一気には剥がれない |
MWPは「決まってから」ではなく「観測が出た瞬間」に動く。一方で米アルコアのCFOは「カナダの税率が下がっても米国は年100万トン規模の輸入が要り、プレミアムは大きくは下がらない」と述べている。カナダ1国の引き下げなら影響は限定的、関税全体の引き下げなら本格的な逆風で、前者が基準、後者が弱気シナリオに当たる。為替(会社前提1ドル157円)は両方向に効くと会社は説明しており、感応度は開示されていない。
| 時期 | イベント | 見る数字 |
|---|---|---|
| 10月19日(月)午後 | 事業説明会(Zoom)「福井リサイクル設備の稼働と今後の展望」 | リサイクル比率の上積みが、関税と無関係にどれだけ利益を生むか |
| 11月3日 | 米中間選挙 | 下院・上院の帰趨。選挙後の通商合意の報道(特にカナダ向けアルミ25%) |
| 11月中旬 | 27/3期 第2四半期決算 | TAAの事業利益(1Q 181億円を維持できたか)。通期860億円の据え置き。在庫評価損の規模。自社株買いの有無 |
| 毎月 | Platts 米中西部プレミアム(MWP) | 1ポンド1ドルを維持するか。7〜9月平均は約1.09ドル、10月初めは約2,337ドル/トン(二次情報) |
| 随時 | 米加交渉・USMCA見直し協議 | 鉄鋼・アルミの税率。カナダ1国か、全体か |
| 2027年2月上旬 | 第3四半期決算 | 会社が「注視」とした4Qの見通しをどう書き換えるか |
| 2027年5月中旬 | 通期決算・28/3期計画 | 中計最終年度の事業利益計画が600億円を上回るか。配当方針(性向30%)の見直し有無 |
| # | 条件 | UACJの実際 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 1 | 株価 2,000円以下 | 2,081円 | ✕ |
| 2 | 配当3.5%以上+優待、または配当4.0%以上(絶対条件) | 予想利回り3.36%・株主優待なし | ✕ |
| 3 | PER 12前後(8〜16) | 9.0倍(中計目標ベースなら約12.8倍) | ○ |
| 4 | PBR 1.0前後(0.6〜1.4) | 0.99倍 | ○ |
| 5 | 直近の高安の中間以下 | 年初来の中間2,814円に対し2,081円(安値圏) | ○ |
| 6 | 決算が上向くポテンシャル | 今期は上方修正済みだが、来期は中計目標(600億)に向けて減益が濃厚 | ✕ |
絶対条件である②を外している。しかも単に「株価待ち」で満たせる外し方ではない。70円配当で利回り4.0%に届くのは株価1,750円だが、その水準まで下がる局面とは、TAAの利益が剥がれて配当も減る局面である。配当性向連動の会社なので、株価と配当が一緒に下がり、利回り条件が逃げていく。⑥も外している。UACJは「バリュー株」に見えるが、この選定条件の物差しでは景気循環(ここでは政策循環)の頂点にいる素材株として扱うのが正確である。