6339 · 東証プライム/名証プレミア 機械 / 日本基準
営業利益が90%増える計画の、3分の2は会計の話である
株価は 2026年8月28日 終値。業績は 2026年8月7日公表の第1四半期決算短信、2026年5月13日公表の通期決算短信、および統合報告書2026を一次資料とする。
条件付き — 増益の3分の2は償却が消えただけ
27/3期の会社計画は営業利益73億円(+90.5%)。だが増加分34.7億円のうち22.3億円は、のれん償却が消えたことによる。第1四半期をその分だけ割り引くと、実力ベースは前年比マイナスである。
条件付き — 実弾はあるが、期限が2029年度
投資有価証券409億円は時価総額の65%。11期連続で減配なし、予想利回り3.98%。ただし政策保有株の縮減目標は2029年度末で、自社株買いは「選択肢」のまま実行されていない。
PER は27/3期予想EPS 106.63円(短信)。PBR は26年6月末BPS 2,191.80円(短信)に対する自算。時価総額は発行済54,580,928株ベース(自己株2,064,755株を控除すると633億円)。ROEは26/3期実績で、209.1億円の減損によるもの。
新東工業の株価が織り込んでいるのは、「規模は倍にしたが、利益は増えなかった会社」という11年分の実績である。売上高は2015年度942億円から2025年度1,762億円へ1.87倍になったのに、営業利益は57.1億円から38.3億円へ減っている。この11年間、一度も2015年度の営業利益を超えていない。そして2024年に約410億円で買ったフランスのElastikos社は、2年後の26/3期に208.1億円の減損として処理された。PBR0.55倍は、その履歴に対する市場の値付けである。
一方で、この減損はバランスシートの膿を出し切ってもいる。のれん残高は123.5億円から4.4億円へ落ち、年22.3億円の償却負担が消えた。27/3期の会社計画(営業利益73億円、+90.5%)はほぼその分である。したがってこの銘柄の判断は、「増益計画を信じるか」ではなく「償却が消えた後、実力の利益が伸びる証拠が出るか」に絞られる。第1四半期の答えは、まだ「出ていない」だった。
2024年4月、Elastikos社(フランス)を買収。表面処理関連の消耗品事業者で、米ブラックストーンから約2億6,000万ユーロ(負債の肩代わり分を含め約410億円と報道)で取得。世界各地に約10,000社の顧客基盤を持ち、統合報告書は買収の狙いとして「顧客基盤の拡大」と「資本コストの7.0%→6.5%への低減」を挙げていた。この買収で有利子負債(リース除く)は144億円から491億円へ、1年で3.4倍になった。
2026年3月5日、のれんの減損を適時開示。通期の純利益予想を30億円から△170億円へ修正。5月13日の決算短信で確定した減損損失は209.1億円(うち表面処理事業208.1億円、そのうちのれん111.3億円)。会社は「将来負担の早期整理を目的として、のれん及び固定資産の減損損失を一括計上」と説明している。株価の年初来安値895円は、その直後の3月30日に付いた。
そして2026年8月現在、株価は1,205円。安値から35%戻し、減損前の水準に近い。市場は「膿は出た」と読み始めている。問題は、出したあとの本業がどうなっているかである。
| 年度 | 2015 | 2019 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 942 | 1,027 | 1,064 | 1,155 | 1,502 | 1,762 |
| 営業利益 | 57.1 | 47.3 | 22.4 | 54.1 | 30.0 | 38.3 |
| 営業利益率 | 6.1% | 4.6% | 2.1% | 4.7% | 2.0% | 2.2% |
| 純利益 | 27.1 | 28.8 | 61.9 | 87.1 | 27.6 | △162.6 |
| 有利子負債(リース除く) | 159 | 196 | 150 | 144 | 491 | 487 |
| ROE | 3.1% | 3.0% | 5.9% | 7.7% | 2.3% | △14.1% |
| 1株配当 | 16円 | 24円 | 36円 | 44円 | 44円 | 44円 |
| BPS | 1,588 | 1,771 | 2,020 | 2,301 | 2,280 | 2,115 |
読み取れることは3つある。①売上は増えたが利益は増えていない。11年で売上1.87倍に対し営業利益は0.67倍。営業利益率は6.1%から2.2%へ落ちた。②配当は一度も減っていない。16円→44円で、11期連続で前年を下回っていない。27/3期は48円へ増配予想。③財務が変わったのは2024年度だけ。有利子負債が144億→491億に跳ねたのはElastikos買収そのもので、それ以前は10年間150〜200億円で安定していた。
| セグメント | 売上高 | 前期比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 表面処理 | 964.9 | +24.1% | 11.0 | 1.1% |
| 鋳造 | 516.7 | +21.8% | 19.3 | 3.7% |
| 環境 | 134.5 | +10.2% | 17.5 | 13.0% |
| 搬送 | 81.9 | △11.4% | 8.9 | 10.9% |
| 特機 | 72.7 | △24.0% | △10.0 | △13.7% |
売上の55%を占める表面処理事業の営業利益率が1.1%。一方、売上構成比7.6%の環境事業が13.0%、4.6%の搬送事業が10.9%を出している。環境事業(134.5億円)だけで、表面処理事業(964.9億円)より多い営業利益を稼いでいる。この構図が、後述するランチェスター評価の核心になる。
| 第1四半期(4〜6月) | 26/3期 1Q | 27/3期 1Q | 増減 |
|---|---|---|---|
| 受注高 | 359.3 | 462.3 | +28.7% |
| 売上高 | 414.3 | 398.2 | △3.9% |
| 営業利益 | 7.1 | 11.0 | +55.1% |
| 営業利益(のれん償却影響を除く) | 12.7 | 11.0 | △13.1% |
| 経常利益 | 5.0 | 13.9 | +175.7% |
| 純利益 | 1.9 | 6.8 | +265.3% |
| 受注残高 | 608.9 | 558.0 | △8.4% |
受注高+28.7%は本物の好材料で、会社は理由として造船業界の堅調とAI・データセンター向けの電子業界を挙げている。だが売上は減り、営業利益の増加分3.9億円は、のれん償却の消滅(四半期あたり5.6億円)で説明しきれてしまう。会計要因を戻すと、実力ベースの営業利益は前年同期を下回っている。
27/3期の会社計画は営業利益73.0億円。26/3期実績38.3億円からの増加分は34.7億円である。この内訳を一次資料から確定できる部分だけ切り分ける。
| 項目 | 金額 | 性質 |
|---|---|---|
| 26/3期 営業利益(実績) | 38.3 | — |
| のれん償却の消滅 | +22.3 | 会計要因(確定) |
| 小計(実力が横ばいなら) | 60.6 | — |
| 27/3期 会社計画 | 73.0 | — |
| 実力の改善が必要な額 | +12.4 | 未達成 |
| 参考:1Q実績の実力ベース前年比 | △1.7 | マイナス |
つまり増益幅の64%は、償却が消えるという確定事項である。残る12.4億円が実力の改善分だが、第1四半期はその方向に進んでいない。
| 新セグメント | 1Q売上 | 1Q営業利益 | 通期計画 | 利益進捗 |
|---|---|---|---|---|
| 表面づくり領域 | 234.5 | 10.1 | 55.0 | 18.2% |
| 素材+形づくり領域 | 110.4 | 0.5 | 17.0 | 3.1% |
| 環境技術領域 | 30.6 | 5.1 | 17.5 | 29.3% |
| ハンドリング技術領域 | 13.3 | 0.1 | 5.0 | 2.8% |
| 支援技術領域 | 11.1 | △2.4 | 1.2 | — |
表面づくり領域の通期計画55.0億円は、26/3期実績11.0億円の5.0倍。うち22.3億円はのれん償却の消滅だから、残り21.7億円が実力の上乗せである。1Qの実力ベース改善は1.7億円にとどまった。環境技術領域だけが進捗29.3%で計画を上回るペースにある。
ナンピンが効くかどうかは「安いから」では決まらない。下値で誰かが実際に買うか、あるいは資産が値段を裏打ちしているかで決まる。新東工業の場合、買い手はまだ現れておらず、支えているのは資産と配当である。
問いは1つ。この会社は強者か弱者か。そして実際に取っている戦略と合致しているか。
この会社は、弱者の戦略で稼ぎ、強者の戦略で失った。環境事業は134.5億円の売上で17.5億円を稼ぎ、表面処理事業は964.9億円の売上で11.0億円しか稼いでいない。前者は局地戦・一点集中・差別化、後者は買収による広域戦・物量戦である。ランチェスターの原則がそのまま損益計算書に出ている。
さらに、資源分散の証拠は11年分の数字にある。売上は1.87倍になったのに営業利益は0.67倍。5つのセグメントを持ち、加えて「5つの技術領域」(環境・IoT・ハンドリング・検査評価・エネルギー)を並行して高度化すると宣言し、そのうえで3Dプリンタによる金属積層造形とセラミック部品の量産工場を新設する計画も進めている。弱者が資源を分散すると負ける、という原則にまっすぐ抵触している。
次期中期経営計画(2029年度)の営業利益目標150億円は、過去11年で最も高かった2015年度の57.1億円の2.63倍にあたる。売上を倍にしても利益が増えなかった会社が、次の3年で利益を4倍にするという計画である。ランチェスター的に読めば、この目標が達成される道筋は「広域で勝つ」ではなく「勝てる局地に絞る」しかない。次期中計で何を捨てるかが書かれているかどうかが、この会社を見る最大の判断材料になる。
強み
弱み
機会
脅威
4象限を重ねると、この会社の実際の勝負どころは1点に絞られる。「のれん償却が消えて浮いた22.3億円を、環境技術領域と造船・データセンター向けという勝てる局地に再投下できるか」である。逆に、その22.3億円が表面処理の世界シェア争いや新工場に薄く撒かれるなら、11年間続いた「売上は増えるが利益は増えない」構図がもう一度繰り返される。
1Qの受注高+28.7%が造船・データセンター向けで持続し、2Q以降は実力ベースでも増益に転じる。27/3期は営業利益73億円を上回って着地。無形固定資産の償却減が想定以上に効く。2027年5月に発表される次期中計で、政策保有株の売却スケジュールと自己株式取得枠が具体的な金額で示される。PBR0.68〜0.80倍へ。
営業利益は60〜73億円で着地。増益は達成するが、その中身はのれん償却の消滅で説明され、実力の改善は限定的。減収計画(1,700億円)どおり売上は落ちる。配当48円は維持。政策保有株の売却は小口にとどまり、自社株買いは見送り。PBR0.48〜0.62倍のレンジで横ばい。この銘柄の期待値の中心はここで、リターンの主役は値上がりではなく年4%前後の配当になる。
欧州の低迷と米国関税で表面づくり領域が計画55億円に届かず、受注残の減少が売上に効いてくる。実力ベースの減益が2Q・3Qと続き、通期計画を下方修正。Elastikos社に追加の減損(固定資産)が出る、あるいは支援技術領域の赤字が拡大する。次期中計が「また広く投資する」内容にとどまり、市場が資本効率の改善を信じない。PBR0.38〜0.46倍。ただし配当48円が維持されるかぎり利回りは4.8〜5.8%になり、895円割れは長続きしにくい。
確率は筆者の主観であり、モデルによる推計ではない。レンジは26年6月末BPS 2,191.80円に対するPBR水準から逆算したもので、BPSは自己資本の変動(とくに投資有価証券の評価差額金)により上下する。
| 時期 | イベント | 見る数字 |
|---|---|---|
| 2026年9月28日 | 権利付き最終日 | 中間配当24円+株主優待(クオカード)の権利確定。優待は保有1年以上が条件なので、初年度は配当のみ |
| 2026年11月上旬 | 27/3期 第2四半期決算 | のれん償却の影響を除いた営業利益が前年同期を上回るか。中間計画31億円に対する進捗。受注高+28.7%が続くか |
| 2026年11月 | 中間配当の確定 | 24円(計画どおりか) |
| 2026年12月〜 | 有価証券報告書・適時開示 | 政策保有株式の売却実績。純資産比率21.3%が下がり始めるか |
| 2027年2月上旬 | 27/3期 第3四半期決算 | 通期営業利益73億円が据え置かれるか。表面づくり領域の進捗(1Qは18.2%) |
| 2027年3月末 | 期末配当の権利確定 | 期末24円・年間48円 |
| 2027年5月中旬 | 通期決算・次期中期経営計画の発表 | 最大のカタリスト。2029年度ROE8.0%・営業利益150億円の積み上げ根拠、自己株式取得枠の有無、政策保有株の年次縮減額。そして「何を捨てるか」が書かれているか |
| 随時 | 受注に関する開示・報道 | 造船、AI・データセンター向けの大型案件。3Dプリンタ/セラミック量産工場の投資額と稼働時期 |
| # | 条件 | 新東工業の実際 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 1 | 株価 2,000円以下 | 1,205円 | ○ |
| 2 | 配当3.5%以上+優待、または配当4.0%以上(絶対条件) | 予想利回り3.98%+優待あり(クオカード、100株・保有1年以上で1,000円分/3年以上で2,000円分) | ○ |
| 3 | PER 12前後(8〜16) | 11.30倍 | ○ |
| 4 | PBR 1.0前後(0.6〜1.4) | 0.55倍(下限0.6をわずかに下回る) | ✕ |
| 5 | 直近の高安の中間以下 | 年初来の中間1,102.5円に対し1,205円 | ✕ |
| 6 | 決算が上向くポテンシャル | 会社計画は営業利益+90.5%。ただし増加分の64%はのれん償却の消滅 | ○ |
絶対条件である②は満たしている。利回り3.98%は単独では4.0%に届かないが、優待があるため3.5%基準が適用される。ただし優待は保有1年以上が条件なので、買った初年度は配当だけになる点は割り引いて考えたい。④を外しているのは「安すぎる」方向の逸脱で、この銘柄の場合は減損後のBPSに対して市場が疑いを持っている結果である。⑤は年初来安値から35%戻した位置にいるためで、1,100円前後まで待てば①③⑤⑥が同時に揃う。⑥は形式的には○だが、中身が会計要因である点は本レポートの結論そのものである。