計画超過と還元強化
- 貸倒関連費用が計画1,200億円を下回り、営業利益が1,050億円超へ
- 利息返還費用の減少が想定より速く進む
- 配当性向50%方針のもと増配
- MUFGによる資本政策の動き(完全子会社化観測など)
20年続いた過払い金という重石が、ようやく消えようとしている。ところが同じ場所に、金利上昇と貸倒増という新しい重石が乗ってきた。差し引きの答えは、会社自身の計画に出ている。
アコムの2026年3月期は、営業利益が+71.4%の1,003億円、純利益が+147.9%の796億円という派手な決算でした。ROEは11.6%。数字だけ見れば大復活です。
しかし今期(2027年3月期)の会社予想は、営業利益980億円(△2.4%)、純利益638億円(△19.9%)。復活した翌年に、会社自身が減益を見込んでいます。
この不思議な組み合わせは、決算短信とデータブックの費用明細を並べると完全に説明がつきます。過払い金(利息返還)の負担が2年で348億円消える一方、金融費用が59億円、貸倒関連費用が143億円、その他営業費用が135億円増える——追い風と向かい風が、ほぼ同じ規模でぶつかっているのです。
そしてこの構図には、もう一つ厄介な性質があります。アコムは貸出金利の上限を貸金業法で縛られています。調達コストが上がっても、値上げでは吸収しきれない。金利上昇局面において、これは構造的な不利です。
2025年3月期の営業利益585.61億円から、今期予想の980億円まで+394.4億円。その内訳を、会社開示の費用明細から積み上げます。下の5項目だけで、差額が1円単位まで一致します。
出所:2026年3月期決算短信および2027年3月期第1四半期データブックの損益明細。営業収益 3,177億→3,560億(+383億)、利息返還関連費用 400億→52億(△348億)、貸倒関連費用 1,057億→1,200億(+143億)、その他営業費用 1,077億→1,212億(+135億)、金融費用 57億→116億(+59億)。合計 +394.4億円、営業利益の差額 585.61億→980億=+394.4億円と完全に一致します。
四半期ベースでは 3,400 → 3,400 → 3,100 → 2,900 → 2,300 → 2,200 → 2,200 → 2,100 → 2,000件と一貫して減少。利息返還損失引当金の残高も 480億円(2025年3月期末)→ 415億円(2026年3月期末)→ 394億円(2026年6月末)と取り崩しが進んでいます。
ただし会社自身が免責事項で「利息返還請求の動向は外部環境の変化等に影響を受けやすく不確実性が高い」と明記しており、過去には環境変化で請求が跳ねた実績があります。ゼロになったと決めつけるのは早い。
2026年3月期の純利益+147.9%には、繰延税金資産の回収可能性に係る企業分類の変更に伴う法人税等調整額の利益方向への計上が効いています(短信に明記)。決算期ごとの法人税等調整額は △120.32億円(2026年3月期)に対し +26.39億円(今期第1四半期)と符号が反転しました。
その結果、今期第1四半期は経常利益+4.9%に対し、純利益は△43.9%という見え方になっています。これは業績の悪化ではなく、前期の一過性の税効果が剥落しただけです。この会社は営業利益・経常利益で見てください。
| 期 | 営業収益 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年3月期 実績 | 3,177億 | 586億 | 589億 | 321億 |
| 2026年3月期 実績 | 3,377億 | 1,004億 | 1,005億 | 796億 |
| 前期比 | +6.3% | +71.4% | +70.6% | +147.9% |
| 2027年3月期 会社予想 | 3,560億 | 980億 | 985億 | 638億 |
| 前期比 | +5.4% | △2.4% | △2.0% | △19.9% |
| 第1四半期 実績(4〜6月) | 887億 | 297億 | 296億 | 191億 |
| 前年同期比 | +7.7% | +5.3% | +4.9% | △43.9% |
| 通期予想への進捗 | 24.9% | 30.3% | 30.1% | 30.0% |
第1四半期の進捗はいずれも30%前後。この会社は季節性が小さく、計画通りに走っていると読めます。小松マテーレのような大幅な保守性も、王子HDのような計画の崩れも、現時点では見当たりません。
| セグメント | 営業収益 26/3 | 営業利益 26/3 | 営業利益 Q1 27/3 | 状況 |
|---|---|---|---|---|
| ローン・クレジットカード | 1,819億 | 536億 +281.9% | 165億 +9.0% | 過払い金負担の消失が直撃した本丸。営業貸付金9,982億(+6.6%) |
| 信用保証 | 810億 | 223億 △5.9% | 55億 △13.5% | 残高は+7.7%伸びているのに減益。貸倒関連費用の増加 |
| 海外金融 | 675億 | 229億 +18.1% | 72億 +16.6% | タイEASY BUYが中核。現地通貨ベースでは残高減、円安で嵩上げ |
| 債権管理回収 | 72億 | 13億 +5.6% | 4億 △13.3% | 小規模 |
信用保証事業は、銀行カードローンの保証を引き受ける事業です。銀行が貸し、アコムが保証する。残高は1兆4,690億円(+7.7%)と着実に伸びているのに、営業利益は2期連続で減っています。会社の説明は「信用保証残高の増加及び新規貸付数の増加に伴う貸倒関連費用の増加」。
つまり量を取りにいって、質が落ちている可能性があります。第1四半期の△13.5%は減益幅が拡大しており、ここは注視すべき箇所です。個人向けカードローン市場のバンク業態は2020年3月期比で△7.3%と縮小しているのに、アコムの保証は+14.9%拡大している——縮む市場でシェアを取りにいっていることになります。
海外金融事業の残高2,800億円(+5.0%)は円安の効果を含んでおり、タイEASY BUYの現地通貨ベースの営業債権残高は前年同期比△3.6%の556億バーツと減少しています。タイの家計債務増加に伴う各種規制の影響です。営業利益が+18.1%と伸びたのは貸倒関連費用の減少が主因で、これは与信を絞った結果でもあります。
フィリピンでは「国家エネルギー非常事態」が宣言されるなど中東情勢の影響が顕在化しており、会社も東南アジア経済への波及を注視すると述べています。海外は成長ドライバーであると同時に、規制と地政学の受け皿でもあります。
この業態を理解する上で最も重要な一点です。アコムの貸出金利は貸金業法の上限金利(元本10万円未満20%、10〜100万円18%、100万円以上15%)に縛られています。一方で調達コストには上限がありません。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 2027年3月期予想 | 2年間の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 金融費用(調達コスト) | 57億 | 73億 +27.4% | 116億 +58.4% | 2.0倍 |
| ローン・クレカ 期中平均利回り | 14.94% | — | — | 前年同期比 +13bps |
| 貸倒関連費用 | 1,057億 | 1,094億 +3.6% | 1,200億 +9.7% | +143億 |
| 貸倒引当金残高 | 1,004億 | 1,068億 | — | Q1末 1,067億 |
金融費用は2年で2倍になります。絶対額としては営業収益3,560億円に対して116億円と小さいものの、増加ペースが速い。そして貸出利回りは前年同期比+13bpsしか上がっていません。上限金利という天井がある以上、調達コストの上昇を全額転嫁することは構造的にできません。
金利上昇局面は、通常なら金融株にとって追い風です。銀行は貸出金利を上げられるからです。しかしノンバンクは違います。上限金利が法定されているため、調達コストだけが上がる。加えて景気が悪化すれば貸倒が増える。つまり「金利上昇+景気悪化」という組み合わせで、収益の両側から挟まれます。
そして株価が下がるのは、まさにその局面です。この点は後述の「買い支える価値」に直結します。
中期経営計画(2026年3月期〜2028年3月期)の資本政策目標は、決算説明資料に明記されています。
| 指標 | 前中計 | 2028年3月期に目指す姿 | 直近実績 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| ROE | — | 10%程度 | 11.6%(26/3) | 達成済み |
| 配当性向 | 35% | 50%程度 | 43.3%(26/3) 54.0%(27/3予) | ほぼ達成 |
| 自己資本比率 ※連結総資産+信用保証残高で算出 | 25% | 23%程度 | 23.3%(26/3) | 達成済み |
| 営業利益 | — | 約1,004億 | 1,004億(26/3) | 初年度で到達 |
4つの目標のうち、少なくとも3つが中計の初年度で達成されています。そして今期予想の営業利益980億円は、最終年度目標の1,004億円をわずかに下回る水準。つまりこの中計は「大きく伸ばす計画」ではなく「達成した水準を3年維持する計画」です。
これは悲観材料でも楽観材料でもなく、この会社の性格を規定する事実です。過払い金の消滅という一度きりのボーナスを使い切ったあと、アコムは営業利益1,000億円前後で安定する成熟企業になる——会社自身がそう設計しています。成長株として見るのは筋違いで、配当を出す安定収益体として見るのが正しいということになります。
なお自己資本比率の目標を25%→23%に「引き下げた」点は、資本を厚く持つのをやめて還元と成長に回すという意思表示です。ただしこれも既に23.3%に到達済みで、ここからさらにレバレッジを上げる余地は大きくありません。
結論から言うと、アコムは4社の中で最も「買い支え」が難しい部類です。三桜工業とは別の理由で。
PBRは1.05倍。BPS 458.96円に対して株価481.6円。小松マテーレのような「株価の9割が現金と有価証券」という構造は、ここにはありません。しかも純資産の裏側にあるのは営業貸付金1兆2,776億円と信用保証残高1兆4,690億円——景気が悪化すれば価値が減る資産です。実際、貸倒引当金は1,068億円積まれています。
さらに自社株買いをしていません。発行済15億6,661万株に対し、自己株式はわずか190株。1株あたり価値を能動的に増やす手段が、配当以外にありません。MUFGの連結子会社という資本構成を考えれば、機動的な自社株買いは期待しにくい構図です。
アコムを買うなら、「下がったから買い増す」ではなく「配当利回りが十分な水準で拾い、貸倒指標が壊れたら降りる」という持ち方になります。ナンピンの前提である「価値は変わらず値段だけが下がった」が、この銘柄では成立しにくい。貸金業は、値段が下がる理由と価値が下がる理由が同一だからです。
逆に言えば、貸倒関連費用が計画(1,200億円)の範囲に収まっている限り、利回り4.57%を受け取りながら保有する合理性はあります。監視すべき数字は株価ではなく四半期ごとの貸倒関連費用と信用保証事業の利益です。この2つが計画内なら、株価の下落は買い場でありえます。
クロスSWOTで一つ挙げるなら:強み(過払い金の出口)はあと1〜2年で使い切る一度きりの資源で、脅威(金利上昇・貸倒増)は継続的に効き続ける。両者がぶつかった結果が今期の「営業利益△2.4%」です。したがって注目すべきは、追い風を使い切ったあとにこの会社が何で伸びるのかという一点——現時点で会社が示している答えは「海外とクレジットカード」ですが、規模はまだ小さい。
現在481.6円、PBR 1.05倍、PER予想11.8倍、配当利回り4.57%。年初来(暦年)は440〜540円と値幅1.23倍で、意外に落ち着いています。ただし2026年3月期を通してみると324〜540円と1.67倍動いており、相場環境次第で大きく振れる銘柄です。
12か月レンジ想定:370〜620円。中心490円前後。基準シナリオの確率を50%に置いたのは、第1四半期の進捗が30%とほぼ完璧に計画線上にあり、この会社が「予想を大きく外す」タイプではないことが数字に出ているためです。上下のブレは業績よりも、金利と景気というマクロ側から来ます。
| 比較軸 | アコム 8572 | 小松マテーレ 3580 | 文化シヤッター 5930 | 王子HD 3861 | 三桜工業 6584 |
|---|---|---|---|---|---|
| PBR | 1.05倍 | 0.71倍 | 1.11倍 | 0.67倍 | 0.60倍 |
| ROE | 11.6% | 3.8% | 11.1% | 3.2% | 3.1% |
| 配当利回り | 4.57% | 3.60% | 4.01% | 4.21% | 3.45% |
| 自社株買い | なし | ▲4.0%/年 | — | 実施中 | — |
| 資産による下支え | なし | 時価総額の92% | あり | 限定的 | なし |
| 買い支えの成立 | △ 条件付き | ◎ 成立する | ○ 成立する | △ 条件付き | ✕ 成立しにくい |
| 株式の性格 | 重石が外れた高配当の成熟株 | 株数が減る資産株 | CFの現在価値 | 資本政策付きの市況株 | 転換へのレバレッジ付きオプション |
アコムは、収益性(ROE 11.6%)と利回り(4.57%)だけを見れば5銘柄で最も優秀です。それでもPBRが1.05倍にとどまっているのは、市場が「成長がない」ことと「景気連動で下振れる」ことを正しく織り込んでいるからで、割安放置ではありません。
買い支えという観点では、王子HDと同じ「条件付き」に分類されます。ただし条件の中身は逆です。王子HDはパルプ市況という外部変数が戻るかどうか。アコムは貸倒という自社の与信品質が保たれるかどうか。後者のほうが四半期ごとに数字で確認できる分、判断はしやすい——監視すべき指標がはっきりしているのは、この銘柄の数少ない扱いやすさです。